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ゆっくりしていきんちゃい

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「おーい!!ロリス!!起きろよ!!」
頭の中でデカイ声が響く…。
「おーい!!」
耳元で叫ぶ声が僕を現実に引き戻した。
「う~ん。」
「おーい!!」
また耳元で響く声に腹が立つのと同時に誰の声か分かった。
「分かったよ!!起きるよ!!パーズ!!」
「じゃぁ下で待ってるぞ~。」
起きてすぐのボーとした視線を無理やり合わせながらいつもの自分の部屋を見渡し、ヨロヨロしながらタンスに向かって今日着る服を無造作に取り出した。
ようやく服を着て一階に降りるとテーブルに座り朝食を食べるパーズがいた。
「お前が遅いから先に飯食ってるぞ。」
「僕の分も残してるんだろうな、この前だって僕の大好きなハム全部食べてたし。」
「そりゃウエンズディおばさんの手作りハムは世界一だからな。それにいいじゃないか。そのあとお前は、『おかーさん』って泣きついてまたハム焼いてもらったじゃないか。」
「泣きついてなんかない!!」
「はいはい、二人とも早く食べないとカーニバルもう始まってるわよ。」
母さんがエプロンで手を拭きながら台所からこっちに来た。
「ヤベッ、ロリス、早く食ってしまおうぜ。」
今日は、ネイベルで行われる年に一度のカーニバルだ。
このカーニバルは、この街ができた記念の日を祝い、街は盛大に賑わう。街はきれいに飾られ、たくさんの露店が列を作り、学者たちがビネス広場で喜劇を演じ、フィナーレには星の形の花火が28発打ち上げられる。カーニバルは夜遅くまで続き、人々は、はしゃぎ、いたるとこで踊り、子供も大人も関係なくこの日を祝う。
僕たちは急いで朝食を食べ終え、カーニバルへと向かった。
「今年もすげぇな!!なぁ、ロリス!!」
いつもはちゃめちゃな事をするパーズは、今日は一段と目が輝いていた。
「おい、見ろよ!!今年もヌルヌルガエルの掴み捕り大会があるぜ!!ロリス、行こうぜ!!」
僕は、あのカエルが大嫌いだ。なんか、こう、気持ちが悪い。なんであの大会が人気があるのか、未だに分からない。
「僕は、やめとくよ。」
「ロリスはいつもだなぁ。たくさん捕まえて一位になったら賞金がもらえるのに。じゃぁオレは行くぞ?今年こそは一位になるんだから!!」
「いいよ、行ってきな。僕は街を周ってるから。」
「じゃあ、いつもの海岸で待ち合わせな。」
そういってパーズは走って行った。
僕は街を周りながら、スパールコールの姿を探してた。
もしかしたら、来ているかもしれないと思って。
僕が歩いていると後ろから僕を呼ぶ声がした。
「ロリス、カーニバルを楽しんでおるか?」
「こんにちは、ガウラロ学長。」
この白い髪、白い髭、そして鼻メガネのおじいさんは、この国、いや世界で一番偉い学者だ。この人は昔、物理、化学、数学、国文、考古学、天文学など学問に数々の功績を残し、学問の第一人者とも言われ、遠い外国からもこの人にたくさんの学者が会いに来ている。言わばこの国の英雄だ。
「ロリス、今年で何歳になった?」
「十歳です。」
「そうか、もう十歳か。ついこの間まで、お前の母さんにおんぶされてた様に感じるわい。いかんな、歳をとると流れる年月には疎くての。いいかロリス、お前の父さんは偉大な学者だったんだぞ。父さんのように立派な大人にならんとな。」
「はい。」
ガウラロ学長は、僕の頭を撫でにっこりと笑い歩いて行った。
僕のお父さんは、僕が生まれる前に死んでしまった。
父さんは学者で、ガウラロ学長と一緒に歴史の研究をしていた。
その中にパーズの父さんもいた。二人は幼い頃から仲が良く、パーズの父さんは大親友だって言っていた。だから、二つの家族同士で仲が良く、そして、パーズと僕は兄弟のように育てられた。パーズの父さんはいつも僕に父さんの話をしてくれた。小さい頃にどんな子供だったかとか、どんな遊びを二人でしたとか、色々聞かせてくれてた。
だけど、僕には父さんの写真と、誰かが話してくれる父さんとの思い出だけで、父さんを想像するしかなかった。
声も、癖も、僕とあるはずだった未来も…。
そんな事を考えたら余計にスパールコールに会いたくなった。

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僕はこの海岸が好きだ。
この海岸から見える海には近くに島も無く、あたり一面に空と海が広がってる。
風のない日が特にきれいだ。
まるで、青い空を映す大きな鏡みたいに海が広がってる。
悲しい時や、嫌なことが起きた時は必ずここに来てた。
空と海がずっと続いて、その先に交わって、どこから空で、どこから海なんだろうって考えてたら、何故だか心が落ち着くんだ。
だから僕はこの海岸が好きだ。

今日も海岸の堤防に座り、僕は昨日のパーズが持って帰った切れ端を眺めてた。願いが叶うという夢みたいな話がいまいち信じられなかった。こんなことが本当にこの世界に起きる訳がないと誰もが思うことだろう。
でも、一つだけ気になった。
この途中で切れている文章…
 『名前は、ス…。』
僕はまだこの伝説が書かれている事を信じてはいない。
だけど、もしこの人が誰なのか分かればこれが本当かどうか分かるかもしれない。もちろん、やっぱりこの文章がウソでこの人物が存在していないかもしれないけど…。
『ワォーン!!』
汽車の音が響いた。『犬列車』だ。
この汽車は独特で犬の遠吠えに似た音がする。
だからこの国じゃみんなそう呼んでいる。
このぺスカートレアイランドは縦に細長い島で、東の端から西の端までは大体歩いて五時間くらいで行けるけど、北のアトリアーヌ城から南の端の港町、ミルモントまでは到底歩いては行けない。
そこで、北から南まで運搬や人々と家畜の移動のために長く一直線の線路を引いてその上を犬列車が年中無休で走ってる。
僕はこのぺスカートレアイランドのちょうど真ん中、ネイベルという街に住んでる。ちなみに名前の由来は、島のヘソの部分だかららしい。
ネイべルはリムーバーストン歴史書館をはじめ、数多く名立たる学問の機関があり、この国の頭脳とも言われている。
他の街にもネイベルのようにそれぞれ特徴がある。
でも、僕はあまり他の街に行った事がない。
行ってみたいとは思うけど…。
「ん?」
さっきまでは誰もいなかったと思ったんだけど、浜辺に誰か座ってる。 …何かしているみたいだ。
ここに人が来るなんて珍しい。別に人が来て変ではないけど…。
僕は側に行ってみることにした。
そこにいたのは、赤いワンピ-スを着ていて、長い黒髪、そして肌が透き通るように白い女の人だった。
僕が、近づいた途端その女の人が、
「はじめまして。」
と言った。僕は少し驚いた。
「驚かしましたか?ごめんなさいね。私、音には敏感なの。特に人の足音には。だから、誰か近くに来たらすぐ分かるの。」
女の人は、僕を一度も見ないで、まるで独り言のように話しかけてきた。でも、どこか話しやすそうな雰囲気がした。
「ねぇ、ここは素敵な場所ね。なんだか落ち着くの。あなたはよく来るの?」
「うん、僕は毎日来てるよ。」
「そうなんだ。あなたのお気に入りの場所なの?」
「そうだよ。だってここから見える景色はきれいでしょ?」
「ごめんなさい。実は私、目が見えないの。でも、なんとなく音で想像できるよ。波の音も風の音も優しい感じがするもの。」
僕はなんで一度も見ないで話をしているのか、ようやく分かった。
僕は、女の人の隣に座った。
「音だけでわかるの?」
「生まれた時から音と感触だけの世界で生きてるから、本当は海も、空も見たことわないの。でも、音と感触だけを頼りに生きてると、形にとらわれない想像ができるし、大切なことが伝わってくるの。」
「大切なこと?」
「そう。見た目や好き嫌いでもなく、この世の中の当たり前じゃなくて、もっと大切な心の世界。」
「心の世界…。」
「あなたにだってあるわ。あなたの声はどこかいつも寂しそうで自分にないものを探してる。でもとてもあなたの声は透き通ってきれいなの。」
僕は生まれて初めて言われた言葉に反応ができなかった。
「気に障ることいった?本当にごめんなさい。」
「いや、違うんだ。いつもこの声のせいで街の連中にバカにされてたんだ。だから初めて言われたから嬉しくて。」
僕は胸の奥が熱くなって何故だか涙が溢れていた。
「あなたにしかないもの。時にはいろんな人がいるから傷つけられる時もある。でも、確かに私みたいにあなたの声を好きになる人もいるわ。」
「ありがとう。」
僕はこの言葉を伝えるのに精一杯だった。
女の人は初めて僕の顔を見た。
そして、優しく笑ってくれた。
「そういえば、自己紹介をしてなったね。
私の名前は、スパールコール。」
「僕は、ロリス。」
「じゃあ、ロリス、私たちはもう友達ね。」
「うん、スパールコール。」
「そろそろ私は帰るね。家族が心配するから。」
「じゃあ、僕送るよ。」
「ありがとう。じゃぁ駅までお願いね。」
僕は彼女の手を引き、駅まで連れってった。
駅に着くと彼女の家族が迎えに来ていた。
「じゃあ、またね。ロリス。」
「うん、またね。」
僕らは手を振りそこで別れた。
僕は家に帰る途中、ずっとスパールコールの事を思い出していた。
生まれて初めて人に言われた言葉、そして空と海より広く、青く澄んだスパールコールの瞳の輝きを。


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